知らないうちに私たちを守り助けてくれている「美しく動的なネットワークの世界」について『美しき免疫の力』ダニエル・M・デイヴィス(著)より紹介しています。
【目次】
「美しき免疫の力」というタイトル通り、体内の免疫の世界は非常に美しく動的なネットワークで構成されていることが、詳しくわかりました。私には、免疫の世界だけでなく、科学者たちの人生をかけたネットワークによる働きも、非常に美しく感じられました。
本書の全体を通して描かれているのは、体内の免疫ネットワークによる生命を守る働きの解明の歴史と、科学者たちのネットワークによる生命を守る研究と発見の歴史です。
『収益に関係なく、人類の健康と幸福、地上で暮らす他の生物の健康と幸福を何よりも優先するような国際組織を新たに立ち上げ、医学研究と新薬開発に対してさまざまな方法で資金が提供される仕組みを整える必要がある。私たちを待ち受けている未来が、そのような輝かしい世界であることを願うばかりだ。』という願いが叶えられますよう共に祈ります。
また、知らないうちに私たちを守り助けてくれている、人間の内外にある「美しく動的なネットワークの世界」に感謝したいと思います。
2020年2月21日
以下の紹介内容は、全て下記より引用しています。
『美しき免疫の力』人体の動的ネットワークを解き明かす
【参考】
『美しき免疫の力』
人体の動的ネットワークを解き明かす
ダニエル・M・デイヴィス(著)
久保尚子(訳)
NHK出版
この革命は、「免疫システムの活性化はつねに変動している」という事実を認識するところから始まった。病気に対する抵抗力は、ストレスや加齢、1日の時間帯や精神状態などに影響されながら、絶えず強まったり弱まったりしている。免疫システムは流動的に変化しており、私たちの健康は綱渡りのような絶妙なバランスの上に成り立っているのだ。
たとえば、血液中の免疫細胞の数は夕方に最大となり、朝方に最小となる。夜になると、身体の活動状況やエネルギー使用量が昼間とは異なる状態になり、免疫システムにも多くの変化が現れる。
睡眠時の熟睡度も免疫システムに影響する。実際に、睡眠不足(一晩あたり睡眠五時間未満)と風邪・肺炎のリスク増加には有意な関連がみられる。
すべての謎が解き明かされたわけではないが、それでも、すでにはっきりしていることがある。それは、体が病気と闘う仕組みも、健康であるために必要なものも、かつて言われていたような単純な考え方ではとても説明しきれないということだ。
従来の考え方――免疫システムは「自分」の一部ではない「異物」を標的にするという説明――は、ごく大雑把にみれば正しいのかもしれないが、つぶさにみれば、だいぶ様相が異なる。
無数の細胞と分子が、その異物を標的とすべきかどうかを生物学的に厳重にチェックし、私たちの健康を保つために幾層にも重なる冗長な仕組みで繊細なバランスを支え、免疫プロセスを絶妙に制御している。
免疫の複雑さを理解し、謎を解明できれば、私たちの健康と幸せに大きく関わる重要な問いの答えにも近くことができるだろう。なぜ一部の人々はがんになっても免疫によって克服できるのか?ワクチンはどのような効果を発揮するのか?ワクチンの有効性を今よりも高めることはできるのか?自己免疫疾患とはいったいどんな病気で、どう対処すればいいのか?
私たちが罹る病気のほとんどは、体に備わる防御能(病気への抵抗力)によって自然に治癒する。そのような治癒力について理解を深め、うまく生かすことができれば、科学が人類にもたらした恩恵のなかでも最大級のものとなるだろう。
数え切れないほど多くの研究者の貢献により、免疫システムに関わる特定の細胞や分子について、驚くべき発見が一つずつ積み重ねられてきた。一人一人の貢献は――天才たちの貢献でさえ――全体像の前ではあまりに小さい。それでも、その小さな発見のために、多大な犠牲を払って邁進した科学者がいたのだ。
短時間であれば問題ないが、ストレスが持続すると、免疫システムが弱まった状態が続くことになりかねない。
長期にわたってストレスを受けている人々の苦しみは、ウィルスに感染した人のが味わう苦しみよりも大きいことがエビデンスによって示されている。ストレスがあると、損傷の治癒に時間がかかり、ワクチンに対する反応が鈍くなることを示すエビデンスもある。仕事による極度の疲労にせよ、失業にせよ、あらゆる種類のストレスが免疫反応の低下と関連づけられている。ハリケーンのような自然災害も、人々の免疫システムの状態を変化させることがある。
ストレスが健康不良の一因になっている可能性を報告している臨床試験は優に100件を超えていることから、多くの研究者が、体に大きな負担となる生活習慣は、自己免疫疾患やがんなど、あらゆる病気のリスクを上昇させる可能性があると考えている。とはいえ、これについてはまだ議論の余地がある。病気への抵抗力に影響する要素はあまりに多く、そのうちのどれか一つの影響を評価するのは難しいからだ。
年齢を重ねるなかで、日ごろの運動レベルやストレスレベルといった他の要素によっても、それ相応の免疫システムが形作られていくことだろう。つまり、免疫システムは遺伝子の継承によって生まれながらに固定されているのではなく、年齢を重ねながら適応していくのだ。
このことは、遺伝学的に同一である(一卵性の)双子であっても免疫システムははっきりと異なり、しかも高齢になるほど大きく異なっていくという事実によって強力に裏付けされている。
免疫システムの大部分は、遺伝子の継承ではなく、非遺伝性の因子に大きく左右されることを示した。私たちの健康には「生まれ」と「育ち」の両方が寄与しているということは、ずいぶん前からはっきりしていたが、「育ち」が体の防衛機能の構成にこれほど大きく関与していたとは驚きである。
双子の解析でも、幼い双子のほうが免疫システムの類似性が遥かに高く、年長になるほど大きく異なっていた。この結果は「免疫システムは年齢とともに個別化されていく」ということを示唆している。つまり私たちは、時間とともに自分らしさを失っていくのではなく、増していくのである。
私たちは今、健康革命の夜明けに立ち会っている。だが他方で、世界の貧困という重大な問題は置き去りにされている。世界人口の約半数の人が1日あたり2ドル以下の収入で生活しているのが現状だ。そして新薬の製造と供給にまつわる経済学も、もう一つの悲劇を生んでいる。
1976年にエボラウィルスが発見されて以来、ワクチンの開発努力が一向に進まなかった理由もそこにある。経済的に豊かな国がエボラウィルスの脅威を感じるようになるまで、ほとんど研究されてこなかったのだ。生死に関わる重大な問題を扱ってはいても、製薬業界はあくまでビジネスであって、慈善活動ではない。研究の優先度を決めるにあたり、収益が見込まれるかどうかは、決定的な要因ではないにせよ重要な要因になっている。
このような状況を改善するには、収益に関係なく、人類の健康と幸福、地上で暮らす他の生物の健康と幸福を何よりも優先するような国際組織を新たに立ち上げ、医学研究と新薬開発に対してさまざまな方法で資金が提供される仕組みを整える必要がある。私たちを待ち受けている未来が、そのような輝かしい世界であることを願うばかりだ。
すべての科学革命に言えることだが、最も重要なのは、新しい知識を得ることではない。私たちはみな、子や孫の世代から評価を下されることになるが、そのときに物を言うのは何を知っているかではなく、その知識を使って何をしたかである。
科学とは何だろうか。真理を追求するための方法であり、科学者が歩む長い旅路であり、武力や権力に至る道であり、知識の体系である。学校の科目としては、好きな人もいれば嫌いな人もいる。無数のピースからなるジグソーパズルのようにいつまでも未完成であり、食料を生み出す一方で、爆弾の製造にも利用され、善の力にも悪の力にもなる。いずれにせよ、科学によって成し遂げられた最大の成功は、これまでも、これからしばらくのあいだも、病気の治癒であることはほぼ間違いないだろう。
しかし、私たちの体に備わる自然治癒力、つまり免疫システムは、これまでに私たち人間が考案してきたどの薬よりも遥かに協力である。たいていの病原体は、私たちが気づかないうちに対処されている。
数十年かけて、私たちはこの体の仕組みをようやく解明しはじめた。ある種類の細胞が失われたとき、あるいは大量に存在するときに何が起きるのか。ある遺伝子を不活性化したとき、あるいは活性化したときに何が起きるのか。ある化学的経路のスイッチをオンにしたとき、あるいはオフにしたときに何がおきているのか。そういったことを、ときには失敗しながら一つ一つ検証することによって、免疫システムに関する多くの謎を解き明かしてきた。
だが、太陽系や金融システムなど、すべての巨大システムと同様に、免疫システムは今も謎に包まれたまま、得体のしれない存在である。どのような理論を打ち立てても必ず欠陥が見つかり、どのアイディアもある特定の状況でしか通用せず、すべては一種の近似にすぎない。私も他の多くの科学者も、日々研究に専念し、残された謎を解明するために生きている。
私個人は、細部まで突き詰めて理解することで得られるものは他にもあると思っているし、他の多くの科学者も私と同じ気持ちだろう。人間が人間について考えるのは、自分の本当の姿を知りたいからだ。科学の本質は、知識と探求の旅である。知れば知るほど、私たち人間がけっして単純な生き物ではないことに気づかされるだろう。
以上の紹介内容は、全て下記より引用しています。
『美しき免疫の力』人体の動的ネットワークを解き明かす
【参考】
『美しき免疫の力』
人体の動的ネットワークを解き明かす
ダニエル・M・デイヴィス(著)
久保尚子(訳)
NHK出版
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