いつもより感情が強く感じられる時は、消耗しているため、通常の意志力が働きません。消耗していることに早めに気づき少し休んで回復しましょう。また、高次の意志を(葛藤を解決して)少しずつ習慣にすることで、ストレスなく長期のヴィジョン方向へ進みます。
2022年1月26日 inner-wish
意志力と習慣力について、『WILLPOWER 意志力の科学』ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー (著)より紹介しています。
以下の紹介内容は、すべて下記より抜粋・引用しています。
『WILLPOWER 意志力の科学』
【参考】
WILLPOWER 意志力の科学 単行本
ロイ・バウマイスター (著)・ジョン・ティアニー (著),
渡会圭子 (翻訳)
出版社 : インターシフト (2013/4/22)
画像は編集して作成しました。
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文章はすべて本文の一部を要約・抜粋・引用しています。掲載順は一部入れ替えています。
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意志力は筋肉と同じように、使いすぎると疲労するが、時間をかけて訓練すれば強化できることが判明した。バウマイスターと共同研究者が実験によってこの力の存在を明らかにして以来、社会科学では、それをテーマにした研究が非常に活発に行われてきた(現在の心理学でも、これらの実験結果は頻繁に引用されている)。バウマイスターをはじめとする世界中の心理学者たちの研究結果から、意志力の強化こそが、人生をよりよいものにする最も確実な方法だということがわかってきた。
実験をするたびに以下の二つの教訓が浮かび上がってくる。
①意志力の量には限りがあり、それを使うことで消耗する。
②すべての種類の行動に用いられる意志力の出所は一つである。
意志力を使用することがらは、大きく分けて四つのカテゴリーに分類できる。
1)思考のコントロール
思考をコントロールしようとしてもうまくいかないことがある。それでも、集中する方法を身につけることはできる。強い動機がある場合にはなおさらだ。
2)感情のコントロール
特に気分や機嫌についてコントロールすることを、心理学では「感情抑制」と呼ぶ。感情のコントロールには特有の難しさがあるが、それは一般的に、意志力で感情を変えることが難しいためだ。
3)衝動のコントロール
誘惑に逆らう能力がこれに当たる。「衝動のコントロール」という呼び方は厳密に言うと正しくない。人が実際にコントロールできるのは衝動ではないからだ。その衝動に対してできるのは、対応の仕方をコントロールすることだ。
4)パフォーマンス・コントロール
そのとき取り組んでいる作業にエネルギーを集中させ、適正なスピードと正確さの組み合わせを探って時間を管理し、作業をやめたいと思ってもやり通す能力のことだ。
ノースカロライナ大学チャペル・ヒル校で長年夫婦療法を研究しているドナルド・バウコムは、多くの共働き夫婦が、はたから見るとささいなことで毎晩けんかするという問題に苦しむのを見てきた。
彼はそんな夫婦に、仕事を早めに終わらせて家に帰るよう助言することがある。疲れて家に帰れば、お互いの困った癖を大目に見る気力も残っていないし、気持ちを切りかえて、優しくて思いやりのある人間にもなれない。相手が言ったことに意地の悪い返事や皮肉で返したくなったときも、口がすべるのを抑えられない。こうした夫婦は、まだエネルギーが残っているうちに家に帰った方がいいと考えた。
彼によると、仕事上のストレスが一番大きい時期に夫婦の関係が悪化するのは、仕事で意志力を使い果たしているからだという。職場で消耗しきってしまうので、そのしわ寄せが家庭にくるというわけだ。
シロクマは心理学者たちのマスコット的存在なのだが、そのもとになったのが、この実験を行なった研究者ダニエル・ウェグナーが聞いた、子どものころのトルストイ(話によってはドフトエフスキー)の逸話だ。トルストイはシロクマのことを5分間考えないでいられるかという賭けを兄に持ちかけられた。彼は受けて立ったが、結局はあり金をはたかれ、人間の精神力の不可解さに気づくことになった。
私たちは思考の流れをせいぜい部分的にしかコントロールできない。そのことは、今はハーバード大学の教授になっているウェグナーが行なったシロクマの実験で証明されている。その実験で被験者は、シロクマのことが頭に浮かんだらベルを鳴らすように言われる。被験者たちは、別のことで気をまぎらわせたり注意をそらせたりして、しばらくはその生き物を頭から閉めだしておくことができたが、最終的には全員がベルを鳴らした。
実験で数分間シロクマのことを考えないように努力した被験者たちは、好きなことを考えた被験者たちに比べ、予想通りパズルをあきらめるのが早かった。また、シロクマの試練を経た被験者たちは、パズル以外の少々つらい実験(コメディートークを見て笑わずにいる)でも、感情をあまりコントロールできなかった。
バウマイスターの造語である「自我消耗」は、人の思考や感情や行動を規制する能力が減る現象を指す。人は精神的疲労に勝てることもあるが、意志力を発揮したり決断を下したりすることでエネルギーを使い果たせば、やがて誘惑に負けてしまう。
自我消耗によって人のさまざまな行動を説明できることがわかると、この用語は何千本もの科学論文で使用されるようになった。悲しい動物映画を見てすでに自我を消耗している被験者にとって、正しい色を答えるのが非常に困難なことは、トロント大学の実験でも証明された。自我消耗状態の被験者は答えを出すのに時間がかかった上に、間違いも多かった。脳の電気活動にも、行動のずれを警告する信号が弱まって、葛藤を監視するシステムが著しく鈍くなっていることが表れていた。
これらの結果から、自我が消耗すると、自己を制御する上で極めて重要な脳の部位である前帯状皮質の働きが鈍くなることがわかった。自我が消耗していなければもっと簡単にできたであろう課題を解くのに苦戦してしまうわけだ。
バウマイスターらが新たに行なった実験のおかげで、人は自我が消耗したときに、あるサインを出すことがわかっている。その実験では、被験者を自我消耗にしたところ、感情にはっきりした変化は現れなかったが、すべてのことに対する反応が強くなったというのだ。
そういうわけで、もしもあなたがトラブルを事前に察知したいのなら、ある特定の症状を探すのではなくて、全般的に感情を強烈に感じないか注意すべきなのだ。いらいらする出来事にいつもより悩まされたり、よくないことを考えてふだんより悲しい気持ちになったり、いい知らせにいつもよりもより幸せな気分になったりしたら、それはあなたの脳の回路が、いつも通りに感情をコントロールできていないせいかもしれない。
何かの誘惑に逆らおうとすると、その欲望をいっそう激しく感じることがあるが、ちょうどそのとき意志力は弱まっている。自我消耗はそうやって人を二重苦の状態に陥らせるのだ。意志力を固めると同時に、欲望をそれ以上に強く感じさせるのだから。
グルコース(ブドウ糖)は、甘いものに限らず、あらゆる種類の食べ物をもとにして体内で作られる単糖だ。筋肉は当然ながら大量のグルコースを必要とするし、心臓や肝臓が働くにも不可欠だ。
免疫システムも大量のグルコースを必要とするが、それは時と場合による。体が健康なとき、人の免疫システムが必要とするグルコースの量は比較的少ない。だが風邪をひいて体が病気と戦っているとき、免疫システムは大量のグルコースを消費する。だから具合の悪い人はよく眠るのだ。病気と戦うために、免疫システムが使えるだけのエネルギーを使ってしまうため、体を動かしたり、愛し合ったり、けんかをしたりするエネルギーはあまり残っていない。
考えるという行為にも血中のグルコースがたくさん必要になるため、病気のときには頭もあまり働かない。グルコースそのものが脳に取り込まれるわけではないが、脳の細胞が信号を送るのに必要な神経伝達物質がグルコースからつくられる。それがなくなると、人は考えることができなくなってしまう。
食べ物はすべて体内でグルコースに変化するが、その速さは種類によって異なる。短時間でグルコースに変化するのは、グリセミック指数(GI値)が高い食べ物と呼ばれる。GI値が高い食べ物を食べると血中のグルコース濃度が急激に上下動し、結局はグルコースが不足して自己コントロール能力が低い状態になる。
そのため、でんぷん質や砂糖でグルコースを急速にとりたという体の欲求に逆らうことができずに、ドーナツやキャンディを食べる、ということを繰り返してしまう。
自己コントロール能力を一定に保つためには、GI値の低い食べ物を食べた方がいい。ほとんどの種類の野菜、ナッツ類、生の果物、チーズ、魚、肉、オリーブオイルやその他の「体によい」油脂などがこれにあたる(GI値の低い食べ物は、肥満予防にもいいかもしれない)
病気で痛む体をひきずって仕事に行こうとするときは、次のことをよく考えた方がいい。ひどい風邪をひいて運転するのは、ほろ酔いで運転するよりも危険だということがわかっているのだ。
風邪と戦うために体の免疫システムが大量のグルコースを使ってしまうため、脳が使用できるグルコースは不足してしまう。仕事をしていると、無理をして切り抜けなければならない場面も出てくるものだが、グルコースが不足した脳に重要な仕事をまかせてはいけない。どうしても出なければならあい会議があるのなら、自己コントロール能力を酷使するような話題は避けよう。
会社の運命を決めるような仕事で指揮をとらなければならないのなら、取り消せない決定をしてはいけない。具合が悪い人に最高の仕事を期待してはいけない。
睡眠不足は自己コントロール能力の低下につながるのだ。体を休めるとグルコースの必要量を減らせるうえに、血流中のグルコースを利用する能力を全体的に高めることができる。睡眠が不足するとグルコースの処理能力が弱まることがわかっているが、その状態は短期的に自己コントロール能力を低下させ、長期的には糖尿病のリスクを高めてしまう。
睡眠不足は心身にさまざまな悪影響を与えるものだが、そういった種々の影響にかくれて、自己コントロール能力を低下させ、意志決定などのプロセスにも影響を与えるのだ。
意志力を最大限に活用するためには、じゅうぶんな睡眠時間を確保することに意志力を使わなければいけない。一晩ぐっすり眠れば、より正しくふるまえるようになる。そのうえ次の日の寝つきもよくなるのだ。
私たちが毎日立てる計画には、一心不乱に取り組んでも決して終わらない量の作業が詰め込まれている。そしてどんな日でも邪魔が入るのが常で、計画通りにやり遂げるのはさらに難しくなる。週末には、終わらなかった仕事が山積みになっている。しかし私たちはそれをずるずると先延ばしにして、いつか奇跡的なスピードで仕上げられると考える。
①悩むことが増える
利害が対立する望みに直面すると、それについて考える時間が増える。いつの間にか、あまり愉快でないことをあれこれ考え頭を悩ませている。
②できることが少なくなる
目標についてよく考える人は、そこに到達するまでのステップを細かく分ける傾向がある。しかし目標に対立があると、行動に移れず考え込んでしまう。明確で対立しない目標を立てた人は、どんどん行動して前へ進むが、そうでない人は心配ばかりして行き詰まってしまう。
③体と心の健康が損なわれる
対立する目標を持った人はそうでない人よりも前向きな気持ちを持つことが少なく、うつや不安におちいることが多かった。心身症的な訴えや症状も多い。身体的な病気に限っても、目標が対立していた人々のほうがかかる回数が多かった。
心理学者は何十年も前から、短期的な目標と長期的な目標の長所について議論している。アルバート・パンデューラーが数学が苦手な7歳から10歳の小学生の子共を対象にある実験を行なった。計算能力のテストをしたところ、習熟度、自己効力感、成績が伸びたのは短期的な目標を設定したグループだけだった。
しかしこの研究が『性格・社会心理ジャーナル』に掲載されたすぐあと、同じ雑誌にオランダ人研究者が、長期的な目標の効果を実証する論文を発表した。長期的な目標。たとえばやりがいのある仕事に就く、大金を稼ぐ、幸せな家庭を築くといった目標を考えている学生たちは、学校でうまくいっている例が多かった。将来のことをあまり考えない生徒は、学校生活もうまくいかない。よい成績をとる、夏休みに旅行する、きちんと卒業するなどの中期的な目標より、遠い将来目標に目を向けた方が、効果があるという結果がでた。また長期的な目標は、他人の助けとなることを目指す、あるいは知識を得ることを目指すといった現在志向の目標よりも役に立つという。
長期的な目標設定が男子高校生には効果があったのに、なぜ小学生の算数の勉強には効果がなかったのだろうか?一つには、高校生は毎日の作業と将来の目標とのつながりが、はっきり見えているからと考えられる。優秀な生徒は将来の目標がはっきりしているだけでなく、現在の勉強や仕事が目標に到達するための重要なステップであると考えていた。もう一つの理由はおそらく、年齢が高くなるほど、将来を具体的に考えられるようになるからだろう。この男子高校生たちが長期的な目標を達成するかどうかはともかく、彼らは毎日の苦労が遠い夢につながっていることを理解して前へ進んでいく。
目標に到達するには、どれくらい細かな計画を立てるべきなのだろうか?ある実験で、勉強の技術を向上させるプログラムに大学生を参加させた。実験者は、毎日計画を立てたグループが、一番よい結果が出るはずだとと予測した。しかしそれは間違いだった。月ごとの計画を立てたグループが、勉強の週間を身につけるという点でも、勉強への姿勢という意味でも、一番成長が見られたのだ。
そして実験が終わったあとも、その習慣が続く確率が高かった。実験が終わって1年後、どちらのグループの学生も計画を立てるのはやめていたが、月ごとの計画を立てた学生たちの方が、毎日の計画を立てた学生よりもよい成績をとっていた。
毎日計画を立てたほうが、そのとき何をすべきか正確にわかるという利点がある。しかし30日分の計画を細かく立てるのは、準備に時間がかかる。もう一つの欠点は融通が利かないことだ。何かをしている途中で選択する機会がないので、ぎっしり詰まった作業の中に閉じ込められたように感じる。ものごとが計画通りにいくことはめったにないので、毎日の計画を細かく立てると、少し予定を守れなかっただけで、やる気が一気に失せてしまう可能性がある。1ケ月ごとの予定なら調整ができる。たとえ1日遅れても、計画はまだ守れているのだ。
人間の記憶は仕事を終える前と後では、大きく違っているのだろうか。ブルーマ・ザイガルニックという若いロシア人の学生と、その指導者である大御所クルト・レヴィンは、被験者にジグソーパズルをしてもらって、途中で邪魔が入るとどうなるかという実験を始めた。この実験はその後、何十年にもわたって行なわれ、のちに「ザイガルニック効果」と呼ばれる現象が確認された。
終わっていない仕事や達成されていない目標は、頭に浮かびがちだという現象だ。逆に仕事が完成して目標が達成されると、頭にそれが何度も浮かんでくる現象はストップする。計画を立てると立てないとで違う結果が出た。仕事が終わっておらず、明らかな進歩がなくても、ただ計画を立てるだけでザイガルニック効果が消えてしまったのだ。しかし計画を立てなかった学生にはザイガルニック効果が残っていて、理解度テストの結果が一番悪かった。
つまり、ザイガルニック効果は、それまで考えられていたように、ある作業が終わるまで、それを思い出すように仕向けるものではなかった。未完成の仕事をときどき思い出すのは、無意識の脳が仕事を忘れていないことを示すシグナルではない。また仕事をすぐに終わらせろと、意識的な脳に小言を言っているわけでもない。無意識が意識的な脳に計画を立てるよう求めているのだ。しつこく迫って、時間、場所、機会など、細かい計画を立ててもらう。計画が決まると無意識な脳は迫るのをやめる。
本当に意志力を強化できれば、はかりしれないほどの利益がある。特にうまくいったのは2人のオーストラリア人心理学者、メグ・オーテンとケン・チェンが開発した方法だ。彼らが被験者として集めたのは、生活のある面を向上させたいと考えていて、その分野で直接的な助力が可能な人たちである。
実験の一つでは、健康を増進したいが定期的に運動はしていないという人を集めた。実験者と面接して定期的なエクササイズの計画を立てる。日誌を書き、記録する。もう一つの実験がは勉強の効率を上げたいと思っている学生たちを対象にした。実験者と会って長期的目標とそのための課題を設定し、目標達成までの手順をより細かなステップに分ける。進行状況の記録や日記を書いて進捗をチェックする。また別の実験では金銭管理を学ぶチャンスを与え、実験者が手を貸しながら予算を決めたり、貯金を増やす方法を考えたりする。出費と収入だけでなく、自分の感情と出費を抑えるためにどんな努力をしているかも記録する。
結果のパターンはこの種の他の実験とほぼ同じだった。何週間か身体的運動や勉強、金銭管理などで自己コントロールを向上させる練習をした被験者は、次第にコントを無視して作業をうまくできるようになった。特に向上したのは、消耗の影響に抵抗することだった。練習で被験者にスタミナがついたため、精神力が消耗したときでも誘惑に屈せずにいられたのだ。予想通り、彼らは目標に向かってまい進した。健康増進プログラムに参加した人元気になった。勉強の成績を上げたい人は、勉強量が増えた。金銭管理を学んだ人はたくさん貯金をした。
しかし本当にうれしいのはここからで、彼らは他のことでもうまくいくようになったのだ。成績向上プログラムに参加した学生は、ふだんより運動も行ない、以前より衝動買いも減ったと報告した。健康増進、金銭管理プログラムの参加者も、前よりまじめに勉強するようになったと答えている。全体的に、この結果は意志力を鍛えると大きな利益があることを示している。
人はあるエクササイズをしながら、気づかないうちに生活のあらゆる面で恩恵を受けているのだ。そして実験によってそれが証明できた。被験者の意志力はしだいに強化されたため、すぐに消耗しなくなった。何かのエクササイズをする意欲を高めさえすれば、全体的に意志力が向上するのだ。少なくとも実験ではそのような結果が出ている。
最初は意志力が必要でも、いったん習慣になってしまうと、ほとんど無意識に行動できるようになり、そのうち意志力は必要なくなる。これは、2人のオランダ人研究者と協力して行なったバウマイスターの研究で見られたパターンと一致する。研究者は論理的に考えて、自己コントロール能力の高い人がその能力を最も発揮するのは、意志でコントロールしている行動だと予測した。しかし、結果を総合してメタ分析したところ、まったく逆のパターンが見られた。
自己コントロール能力の高い能力は、多少なりとも無意識の行動に顕著に表れる。彼らが無意識に行われるとしてコード化した行動は習慣と結びつき、意志でコントロールする行動は日常的ではない、一度きりの行動であることが多かった。
自己コントロール能力が最も効果を発揮するのは、悪い習慣を断ち切り、よい習慣を確立するときだ。健康的な習慣を確立するには意志の力が必要だが(だから意志力がある人の方が成功しやすい)、いったん習慣になってしまえば、その後の生活、特に生活のいくつかの面が、スムーズに進む可能性が高い。
自己コントロールは突き詰めれば自分だけのことではない。意志の力によって私たちは他人とよい関係を築き、目の前の欲望が引き起こす衝動を乗り越えることができるのだ。
高レベルな思考とは、長期的な目標をすえた抽象的な思考と定義できる。高レベルの思考を促された人ほど自己コントロール能力が向上し、低レベルの思考をした人では低下した。高レベルの思考をしたあとでは、目の前の報酬を断って、将来、もっと大きな報酬を得る選択をすることが多い。
視野が狭く具体的で、今現在に目を向けている思考は自己コントロールには不利で、幅広く、抽象的で、長期的な思考は自己コントロールを助けることがわかった。
なぜ自己コントロール能力の高い人の方が意志力を使うことが少ないのだろう?しかしそこで一つの答えが浮かび上がってきた。
自己コントロール能力が高い人が意志力を使う必要がないのは、誘惑にさらされて内部に葛藤を抱え込まないからなのだ。彼らは問題になりそうな状況を避けるのがうまい。それは自己コントロール能力が高い人は、緊急事態を切り抜けるためではなく、学校や職場で役立つ習慣や手順をつくるために使っていることを示すものだった。
自己コントロール能力が高い人は、一貫して生活にストレスが少ないという。彼らは時間をかけて、一つのプロジェクトを完成し、車が故障する前に整備工場に持っていき、食べ放題のビュッフェ形式は避ける。守るのではなく攻めているのだ。
消耗しているという明らかな「感じ」はない。そのため誤解しやすいかすかなサインを見逃さないようにしなければならない。いつもよりいろいろなことが気に障るだろうか?そのような感じに気づいたら、それまでの数時間を振り返って、意志力を消耗させる行動をしていないかよく考えてみる。
もし消耗していると思ったら、残っている分をあまり使わないように努める一方、自分の行動にも何らかの影響を与えているという心構えをしておく。消耗しているとき、人は間違いを犯しやすくなり、お金を余計に払わなければならなくなったり、人間関係を傷つけたり、体重が増えたりする。
エネルギーが低下しているとき、絶対に実行しなければならない決定を行なうには用心が必要だ。その決定で長期的にどのような結果がもたらされるかよく考えて、バランスをとるようにしよう。不合理なバイアスや安易な近道に流されないようにするには、決定した理由をきちんと言葉にして、筋が通っているか考えることだ。
近年、「意志力」が注目されているが、本書の著者ロイ・バウマイスターこそ、意志力を科学として確立し広めた立役者にほかならない。とりわけ「意志力は筋肉のように疲労し、また鍛えることができる」という彼の発見はよく知られている。
ほかにも、バウマイスターは多くの研究成果を挙げており、その動向はつねに国際的に注目されている。実際、心理学者として世界で最も研究成果の引用が多く、影響力の大きいひとりなのだ。バウマイスターは、同業者も感嘆するほど旺盛な活動を続けており、まだまだ本書で触れられていない膨大な研究成果がある(本書はバウマイスターの28冊目の著書)。
意志力の科学に関する彼の功績は次のようにまとめられるだろう。
①「意志力」とは何かを明らかにした
②意志力を測る尺度や新たな実験手法の考案
③意志力の消耗と強化法の発見
④自尊心から自制心(自己コントロール)への潮流をリード
⑤自己コントロール能力の社会的影響を知らしめた
今でこそ「意志力」は脚光を浴びているが、長い間まっとうな研究対象とは見なされてこなかった。注目されていたのは「自尊心」であり、バウマイスター自身も当初は自尊心の研究を行なっていた。だが、やがて「自制心(自己コントロール)の研究へと舵を切る。バウマイスターらが牽引してきた社会心理学のこうした潮流の変化は、いま私たちに大きなインパクトを与えつつある。
健康、コミュニケーション、ビジネス、学習、依存症の治癒、家庭内暴力や犯罪の抑止からダイエットまで、従来の方法論が見直されようとしているのだ。特に生涯にわたって影響をおよぼす点で、教育・育児における活用が注目される。
(本書出版プロデューサー真柴隆弘氏の解説より)
以上の紹介内容は、すべて下記より抜粋・引用しています。
『WILLPOWER 意志力の科学』
【参考】
WILLPOWER 意志力の科学 単行本
ロイ・バウマイスター (著)・ジョン・ティアニー (著),
渡会圭子 (翻訳)
出版社 : インターシフト (2013/4/22)
画像は編集して作成しました。
小見出しは掲載されている見出しと、内容から作成した見出しを使用しました。
文章はすべて本文の一部を要約・抜粋・引用しています。掲載順は一部入れ替えています。
良い種を選んで蒔き、育て続けることは役立ちます。長期ヴィジョン中で良い種を選んで蒔き、「思い・言葉・行ない」の種を日常生活の中で見直すことができますように。